研究の背景・目的

近年、経済学の研究成果の蓄積により「どのような制度を用いれば、限りある財をより良い形で配分できるか」というマーケットデザインの研究が注目を集め、制度設計手法の検討が進められている。一方で、マーケットデザインの研究成果の応用先は限定的であった。

本研究では、人やモノを「適材適所」にうまく配分するという社会の基本問題を解決するために、従来社会に存在しなかった新たな制度の実行プロトコルを最新の理論研究に基づいて設計する。それにとどまらず、これらを現実の社会で実用化し、待機児童数の削減などのわが国が直面する重要な問題を解決してゆく。制度の設計・実用化・評価には、経済理論に加えアルゴリズム、人工知能、データサイエンスなどの知見が不可欠であり、本研究はこれらの関係分野のトップ研究者をそろえ「真の意味での文理融合」を実現する。元スタンフォード大学教授としてこの分野で世界をリードしてきた研究代表者を迎えて新たに設立された東京大学マーケットデザインセンターを本研究のためのインフラとして活用し、研究成果を実用化により社会に還元するとともに、そこから得られたフィードバックによって最先端の知見をさらに切り拓いてゆくことを目指す。

研究の方法

最新の研究成果を使って制度の実行プロトコルを設計し、東京大学マーケットデザインセンターを活用して実用化する。特に「マッチング理論」と「オークション理論」を活用する。これを通じて、「地方の医師不足の解消」「待機児童数の削減」「ブロックチェーン技術を使った契約履行(デジタルコート)」などの重要かつ先端的な社会問題の解決に取り組む。

そこから得られた知見をもとに、市場や組織、そして広く制度の機能を「設計者の視点から」再検討し、資源配分という社会にとって最も根源的な基本問題に対する理解を深める。同時に、実用化によってその成果を実社会に直接大きな形で還元する。実用化に際しては、東京大学マーケットデザインセンターが様々な機関と連携することにより、従来は本研究領域の活用が想定されていなかったが大きなシナジー効果が見込まれると思われる多様な問題にも柔軟に取り組んでいく。

期待される成果と意義

本研究においては、実際に様々な場面で「適材適所」が叶わないことに課題感を持っている様々な機関・企業のニーズを的確に収集・把握し社会実装のための橋渡しを担う東京大学マーケットデザインセンター、これらのニーズに応えるための最適な制度を設計する研究代表者らを始めとした理論研究グループ、そしてこの設計された制度の社会実装を実現させるアルゴリズム・人工知能・データサイエンスの高い専門性を有する実装チームの間での高いシナジー効果が期待される。

従来のマーケットデザイン研究においては、「社会で実際に必要とされる制度の正確な把握」「社会からの要請に耐えうる最適な理論の構築力」「緻密に設計された理論を実装するためのコンピューターサイエンスの活用」のうちいずれかの欠如により社会実装の効果が限定的であったが、この三要素を高いレベルで兼ね備えている研究例は類を見ない。本研究により、教育・保育といった長期的に日本が成長するための枠組みから、労働市場や金融市場などの経済を支えるための制度作り、そして災害・パンデミック時に限りあるリソースを最大限に活用するための方策など、スパンの長短や緊急性等に関わらず様々な問題の解決に貢献することができる。

本研究は、時代の要請に対し即座に解決策を実装していく、次世代の社会科学の在り方のロールモデルとなることが期待される。

当該研究課題と関連の深い論文・著書

  • Kojima Fuhito, Kamada Yuichiro, “Fair Matching under Constraints: Theory and Applications.” accepted for publication, Review of Economic Studies.
  • Kojima Fuhito, Ning Sun, Ning Neil Yu, “Job matching under constraints.” American Economic Review 110.9 (2020): 2935-47.
  • Kojima Fuhito, Akihisa Tamura, Makoto Yokoo, “Designing matching mechanisms under constraints: An approach from discrete convex analysis.” Journal of Economic Theory 176 (2018): 803-833.
  • Kamada Yuichiro, Fuhito Kojima, “Efficient matching under distributional constraints: Theory and applications.” American Economic Review 105.1 (2015): 67-99.